2006年05月31日
SMR 第1話 『デスノート』を特捜せよ!
長めなので、それでも良い方のみ読み進めてください。
面白いか面白くないかは良くわかりませんが、好評のようでしたら続編もやりたいと思います。
この世の中には通常の科学では計りきることのできない謎や超常現象というものが存在する。
そんな超常現象を独自の取材や検証、オルタナティブな切り口で解明しようと一つの組織が結成された。
それがSMR(セピアメモリー・ミステリー・ルポリタージュ)である。
決してサドでマゾなことを調査する組織ではない。
これはそのSMRが辿った奇跡の記録である。
第1話 『デスノート』を特捜せよ!
2005年8月。某編集社・セピアメモリー編集部・会議室。
「しかし、最近の『デスノート』の落胆降りは酷いな」

SMRメンバーの一人、ホイミンが今週発売されたジャンプを読みながら言う。彼の性格は脳天気で楽天家。何事もどうにかなるが口癖で、生まれてこの方、この主張のみで生きてきた人物である。
「ええ、昔のようなハラハラドキドキ感っていうんですか? それが感じられないというか。 やはりLを殺したのは失敗だったんですかね……」
同じく、メンバーのチヨ。性格は慎重で丁寧。物事を様々な角度から眺めるのが得意で、視点をずらした考え方をするのが得意。SMRでは主に細かい部分の検証調査などを担当している。
「以前は純粋にサスペンスとして楽しめたものだが、今ではミサイルとか出てきて際物漫画になりつつあるからな……。トンデモというか。福本信行イズムというか。ナナメから読まないといけなくなりつつはあるよな」
「そうですね……。久々に普通に読める漫画に巡り会えたと思っていたのに。時の流れというのは残酷です。才能の枯渇という奴でしょうか」
沈む空気。どんよりとした空気が会議室を囲繞する。
そんな二人の重苦しい会話が続く中、一人の男が会議室に現れた。会議開始の時刻はとっくに過ぎているのにも関わらず、まるで何事もなかったかのように部屋に入り堂々とした態度でホイミンとチヨに言う。
「おまえ達、どうしたんだ?」

「ニャオキバヤシさん」
男の名前はニャオキバヤシ。SMRのリーダーである。
「いや、最近の『デスノート』の落胆ぶりについて、ホイミンと議論していたんですよ」
「ふむ……。『デスノート』か。確かに俺もこの作品については疑問に思うところが多々あったんだ。ようし、調べてみるか。SMR出動だ!」
「おう!」
第1章 デスノート
3日後。同じくセピアメモリー編集部・会議室。
それぞれが調べたことを持ち寄り、『デスノート』についての検証が発表される。
「みんな、揃ったようだな。よし、調べたことを発表してくれ」
ニャオキバヤシが腕を組みながら言う。
「はい。では、まずは私からいきます」
そう言って席から立ち上がるチヨ。
「まずはデスノートをGoogle検索することから始めました」
「Google検索か。まあ、基本中の基本だな」
「検索してみたら、驚きましたよ……348000件もヒットしたんです」
「なんだと?」
「内容の方は感想サイトや、ファンサイト、2次創作サイトといった物が多かったです。 感想については、やはり殺人漫画が少年誌で平然と連載しているのに驚愕しているというものが多かったですね」
「ジャンプのテーマである友情・努力・勝利とは無縁の内容だものな……。人死にまくりというか」
ホイミンが言う。
「それと、推理ですとか、検証ですとか、そういったことをする余地が沢山ある作品なので、いわゆる検証サイトみたいなものも沢山ありました」
「なるほどなー。自分の意見をブログで発表して反応を待つわけだな」
「あと、それ意外に気になるものがあったんです」
「なんだそれは?」
神妙な面もちでホイミンが言う。
「コラージュというのですが……。本編の台詞を差し替えてギャグなどを作っているサイトが多かったんです。改変漫画というか。本誌の原稿をスキャンして、それのコマを切り張りしたりして作品を作っていたんです」
「そんなことをして何が楽しいんだ……」
「通称『コラ』と呼ばれているのですが、『デスノート コラ』という検索結果だけでも21400件引っかかります。このコラージュからデスノートに入ったという読者も多いようです」
「ネットでコラを見てハマったということか」
「それ専用のアップローダもかなり存在していましたね。勿論、まとめサイトみたいなものも。連日、かなりの投稿がよせられています。1コマや、1ページのみを改編したものから、数ページを要する大作までかなり幅広く作られている感じです」
「凄いネットパワーだ」
「私からは以上です」
「よし、次はホイミン頼む」
チヨが着席し、ホイミンが立ち上がる。
「おう。俺はデスノートの作者について調べてみたぜ。まずは作画を担当している小畑健。20年前にデビューはしているんだが、高い画力を持ちながらもヒット作に恵まれず、ジャンプ本誌でも数々の打ち切りを食らっているようだ。
しかし、1999年に始まった『ヒカルの碁』が大ヒットで陽の目を見るようになった」
「『ヒカルの碁』か。碁ブームを作った作品だったな。懐かしい」
「で、『ヒカルの碁』の終了後に『デスノート』が始まり、これまたヒット。今に至るわけだ」
「原作の大場つぐみ氏については? 何かわかることありました?」
質問するチヨ。
「それが……」
言葉を噤むホイミン。
「大場つぐみについては、詳しいことは殆どわからなかったんだ」
「どういうことなんだ!?」
険しい顔でホイミンが問う。
「年齢や出身地はおろか、性別すら不明。少なくとも大場つぐみという名義では、これまで読み切り版の『デスノート』を除いて作品を発表してはいない。
わかったのは、血液型がB型で出身地が東京ということくらいか。
これまで無名であったことは間違いないな。
集英社に問い合わせもしてみたが、勿論何も回答は得られず」
「それは妙な話だな……。小畑健と言えばジャンプの抱える人気作家だ。
そんな人気作家に無名な原作者を組ませるなんてことがあるのだろうか?」
「普通に考えればありませんよね……。ジャンプと言えば発行部数日本一を誇る雑誌。
『ヒカルの碁』のほったゆみ氏も連載開始時は無名の新人でしたけど、その時は小畑健氏も今ほどの知名度はなかった。あの時と今とでは状況が違います」
「これについては、色々な噂が流れているな。実際は有名作家が何らかの理由で別名義でやっているとか、複数作家の複合名義であるとか。
面白いところでは、乙一説やガモウひろし説なんていうのもある」
「が、ガモウひろし――!? というとラッキーマンの? これはまたとんでもない名前が出てきましたね」
「ああ。こんなところで、その名を聞くことになろうとはな」
「俺からは以上だ」
着席するホイミン。
「最後は俺の番か」
そう言って立ち上がるニャオキバヤシ。ホワイトボードの前に移動し、ペンを握る。
「俺は『デスノート』の収益関連について調べてみた。
端的に言えば、どれだけ儲かっているのか、ということだな」
「さすがは銭ゲバ……」
ホイミンが言い終わる前に睨みつけるニャオキバヤシ。が、すぐに表情を元に戻し説明を再開する。
「特質すべきは単行本の売り上げだ。
何と第1巻の発行部数が100万部を超えたのが歴代ジャンプ漫画の中で1番早いらしい。
これはアニメ化もされていない漫画としては、異例のことのようだ。その後の巻もコンスタントに100万部超えをしている」
「それだけ支持を集めているということか」
「ああ、ジャンプにとってはドル箱作品ということになるな。この辺りは作者の優遇措置にも現れていると言える」
「優遇措置?」
「連載開始から2年弱が経っているが、その間に2回の休載と1回の長期休載が認められているんだ。これはジャンプとしては異例中の異例と言えよう」
「2ちゃんねる風に言えば、クオリティタカスクリニックを保つ為なら休載OKということか」
「ああ、そうなる。ちなみに休載時には本誌そのものの発行部数を下げ、再開時には元に戻す――といったこともしているそうだ」
「まさに『デスノート』さまさまといった感じですね」
「まったくだ」
頷くホイミンとチヨ。
「ただし――」
「?」
「最近はこの人気に陰りがあるらしい。コミックスの発行部数も初期に比べると下がり気味で、アンケートの順位も下がりつつある」
「その原因は?」
「どうやら第2部に入ってから、この現象が顕著に現れているようだ。世間一般で言われている作品クオリティの低下に関連しているのかもしれない」
「なるほど」
「以上だ」
着席するニャオキバヤシ。
「思った以上に謎が多そうですね。確実に」
「そうだな。コラージュの謎に、大場つぐみの謎、第2部の謎。
どうやら、もっと詳しく調べてみる必要がありそうだ」
第2章 ガモウひろし
8月末日。朝9時、セピアメモリー編集部。
『デスノート』についての調査を開始して以来、月曜日になるとチヨがジャンプを買ってくるのが日課になっていた。
そこでサンドウィッチを頬張りがながら、他の隊員が出社するまでにジャンプを読むのが彼の密かな楽しみとなっていた。
今日もいつものようにジャンプを捲っていたが、そこであることに気付いた。
「あれ? また掲載順位が低いなぁ」
呟くチヨ。
「うぉっす。どうしたんだ?」

そこに出社してきたホイミン。
「おはようございます、ホイミンさん。
いやね、『デスノート』なんですけど、最近掲載順位が低いような気がならなくて」
「そんな莫迦な。ジャンプの人気漫画だぞ。ジャンプと言えばアンケート至上主義で有名だ。アンケートの順位がそのまま掲載順位になってるんだ(一部除く)。『デスノート』が低いわけがない」
「いや、でも。現に……」
そういって本誌を見せるチヨ。
「確かに低いな……。チヨ、これは以前からそうなのか?」
「以前はもっと上位だったと思います。
具体的には……そうですね。やはり第2部に入ってから順位が下がっている感じがしますね」
「そう言えば、アンケートの平均順位を載せているサイトがあったなぁ。調べてみてくれ」
言われて端末を立ち上げるチヨ。カチャカチャと操作し、目的のサイトを見つける。
「ありました、これですね」
ズラリと掲載順位が並ぶ。
ワンピ 2.47
ナルト 2.47
ブリーチ 4.44
アイシ 5
ボボボ 6.70
デスノ 7.59
銀魂 7.71
ムヒョ 8.15
タカヤ 9 (13話)
テニス 9.06
リボーン 9.74
ネウロ 10.08
グレイ 10.13
切法師 12.08 (12話)
カイン 14.50 (14話)
こち亀 14
ミスフル 14.21
ユート 14.50 (21話)
いちご 15.12 (32話)
ハンタ 15.28
「こ、これは!? 6位? ボーボボボ・ボーボボに負けているというのは……」
「上位人気作品であることは間違いないですが、ジャンプが優遇措置をとるほどの作品かと言えば……そうでもないような」
「すると何ってーか? そんなに人気が無くてもジャンプには『デスノート』を続けなければならない理由があるというのか?」
「意外と事件の根は深そうだな」

「ニャオキバヤシ!」
「ニャオキバヤシさん!」
バリバリの遅刻で編集部に登場したニャオキバヤシ。勿論、悪びれた様子はない。
「社長出勤とはいい身分だな」
「いや……国会図書館でガモウひろしについて調べていたんだ」
「!?」
「面白いことが色々とわかったよ」
「面白いこと? っていうか、ガモウひろし=大場つぐみ、なんてどう考えてもこじつけのネタだろ? いくらなんでも(絵柄等含めて)違い過ぎるというか」
「いや……。調べてみて驚いたよ。ネットの掲示板の多くはガモウひろし=大場つぐみと言って、作品を批評するときに『ガモウやるな』『ガモウなかなか』などと言っているらしいんだ」
「なんだって!? それじゃ何か。みんなガモウ=大場説を盲信しているというのか?」
「そうなる。そればかりか、先に行われた第4回日本オタク大賞では岡田斗司夫が『大場つぐみはガモウひろし』と発言。また、鶴岡法斎が『今のジャンプはガモウ王朝になっている』と言ったらしい」
「ガモウ王朝!?」
「ジャンプはどうなってしまうんだ……」
「有力な説としては、『大場つぐみ oobatugumi』のアナグラムが『ガモウ死没 gamousibotu』になっているというのと、ジャンプの打ち切り作家達が作ったというグループ『○×組(おおばつぐみ)』のリーダーにガモウがいるらしい」
「大場つぐみは複数名義ってことか?」
「そうなる。まあ、複雑な伏線やトリックを使っている作品だからな。複数名義ってのは有り得ない話ではないだろう。ちなみに『ヒカルの碁』のほったゆみも実は夫婦二人の名義らしい。女性原作の方が受けが良さそうという理由から、この名前になったようだ。つまり、大場つぐみが複数名義だとしても何ら不思議はない」
「ガモウを含む複合名義ですか。あり得る話かもしれないですね。そうだ、ガモウと言えば……
「どうした? チヨ」
「さっきメールをチェックしていたんですけどね。
その中に気になる内容のメールがあったんです。これなんですけど」

「なんだこれ? イタズラだろ?」
動じないホイミン。
「そう……ですよね」
しかし、チヨの表情は晴れない。
「で、これからどうするんだ? ニャオキバヤシよ」
「俺はこれから越谷に行く」
「越谷?」
「ガモウひろしの故郷だ。
そこでガモウを知る人物・タロウ氏と会うことになっている。おまえ達も来るか?」
頷くホイミンとチヨ。
東京駅から約45分。越谷駅に到着したSMRメンバー達。
「ここが越谷かあ。そう言えばガモウひろしの漫画でも何回かネタになっていたっけ」
辺りを見回しながら言うホイミン。
「で、そのタロウ氏とは何処である手筈になっているんですか?」
「ああ、この駅にあるスターバックスで13時に会うことになっている」
「なるほど」
「ちなみにガモウひろしの“ガモウ”というのは、この辺りにある地名『蒲生』が元ネタになっているようだな」
「へぇ~、まるで所ジョージみたいですね」
そんな雑談を交わしながらスターバックスへと向かうメンバー。
しかし、到着し1時間が経ち、2時間が過ぎてもその人物は現れなかった。
「おかしい」
神妙な面もちで言うニャオキバヤシ。
「もう2時間過ぎましたね……。我々コーヒー1杯で粘りすぎというか。
さっきから店員がこちらを睨んでいます。……じゃなかった。なんか変ですね」
「忘れてんじゃねーの?
ニャオキバヤシよ。そのタロウ氏と会うっていうのは確かな話なのか?」
「ああ、間違いない。だが、おかしいな」
と、そんな会話が成されていた時であった。
一人の主婦がメンバーの元に声をかけてきた。
「あのう……。あなた方はSMRの人達でしょうか?」
「そうですが、貴方は……??」
「実は息子のことなんですが……」
「な、なんだって!? タロウ氏が交通事故に!?」
タロウ氏の母親に連れられ病院へと向かう一同。病室の前まで到着すると、そこには「面会謝絶」の札が。項垂れる一同。
「今朝まで元気だったのですが」
とタロウ氏の母親。
「くそっ、俺が迂闊だったんだ! もっと慎重に調査を進めていれば!!」
拳を壁に突き立てて悔やむニャオキバヤシ。
「な、なあ。今回の件、ヤバイんじゃないのか?」
「ええ、何か陰謀のようなものを感じます。
我々に会うと言って出かけたタロウ氏が交通事故。これは偶然なのでしょうか?」
「どうするんだ? ニャオキバヤシ」
「おまえ達! うろたえるな!!」
「ニャ、ニャオキバヤシ!」
「調査は続ける。ここで調査を止めては全てのことが水泡に帰してしまう。
それでは真実は見えないんだ! 我々が動かなくて誰が動くというんだ?
我々は成さなければならない!」
「し、しかし……」
怖じ気づくチヨ。そこでタロウ氏の母親が思いだしたように言った。
「そう言えば息子が出かける前に、妙なことを言っていた気がします」
「妙なこと?」
「確か……死神が来る、と」
第3章 死神
セピアメモリー編集部。
それから1ヶ月が経った。
調査は続けられていたが、特に進展するような出来事はなく、ただ日時が過ぎるだけであった。
謎の言葉「死神が来る」についても何もわかるようなことはなく、完全なる手詰まり。人生行き詰まり。
しかしながら、日常はいつもと変わらず過ぎていくのであり、今日は今日とていつものようにホイミンとチヨは雑談を花を咲かせているのであった。
「あー、また後ろの方に載っているなぁ。2部に入ってから、二桁掲載がデフォルトになりつつあるというか」
ジャンプを読みながら、チヨが言う。
「打ち切りじゃねーの? 親父も死んじまったし、月も馬鹿になってキャラクター変わっちまったし。1部の頃は面白かったけどさ。2部は駄目だよなー」
興味がなくなったように言うホイミン。

「しかし、今更ですけど死人の多い漫画ですよね。
とても少年誌の内容とは思えないですよ」
「だからこそ、人気がないと即打ち切りだよな。人気があることが続ける為の必須要因というか。
ま、普通に考えてもPTAが黙っていない内容だよな。
けど、それでも人気があって、旨味のある作品なら、集英社だって続けさせるだろうし……。真相は何なのだろうな」
「でも、もうこれはいつ打ち切られてもおかしくはない掲載順位ですよ。
そろそろ何かしらあるんじゃないですかね?」
「やっぱ、L殺したのがマズかったんだよなー」
「そうですよねぇ……。私もそう思います」
そこに現れるニャオキバヤシ。

二人と会話することなく、席に着きPCに向かい黙々と仕事を進める。
「どうだ? 何かわかったか?」
というホイミンの呼びかけにも何も答えないニャオキバヤシ。黙々と作業は続けられている。
「だんまりかあ。こうなると手が付けられないな」
「何かしら宛てがあるんでしょうか?
「さあねえ。ま、俺達は俺達で出来ることをしようや。なあ、チヨよ」
「そうですね」
そういって仕事に向かう二人。
~1時間後~
「駄目ですねえ。何もわからないというか」
「死神なんてフィクションの世界だろう? そんなんどうやって調べればいいのか。
仮にそんなのがいたとしても、俺達ではどう考えても力不足だろうしなあ」
「在り来たりな解釈としては、漫画に登場するリューク、レム、シドウ、ジャスティン他の死神のことを指しているのか。
タロットカードの13番目が死神のカードだったりしますけど、これも関係ないですよねえ」
「イザナミとかタナトスとか。有名な死神もいるが……関連性は見あたらず」
八方塞がりといった感じで両手をあげるホイミンとチヨ。降参、諦めといった感じの表情をしていた。
今回の事件の真相とは一体何なのか。そもそも、何を解明することが真相なのか。事件を捜査する手応えというのものを二人は失っていた。真相なんて存在しないのではないだろうか、という気さえしていた。
ふと、ニャオキバヤシの方向を見るチヨ。真面目にPCに向かっているのかと思いきや、ぼーっとした表情のままPCの画面を見つめているだけであった。
要するに、彼も八歩塞がりな状態だったのである。
「ニャオキバヤシさん、この1ヶ月間、ずっとこんな調子ですねえ」
「まあ、ニャオキバヤシがあんな感じだからな……。俺達がいくら頑張っても無理というか。厳しいよな、実際」
窓を目をやり、何か遠くを見つめるように黄昏れているニャオキバヤシ。
(調べられるものは全て調べた。
漫画も全て読んだし、死神についての文献も多く漁った。
しかし、手掛かりになるようなものは何もなかった。
何かないのか? 点と点が線に繋がるような何か手掛かりが!)
)
その時。
「おっと、紙を落としてしまった」
とホイミン。
コピー用紙はヒラヒラと宙を舞い机の下に落ちた。
「こりゃ、机をどかさないと取れないな……。チヨ、手伝ってくれ」
「わかりました」
「サンキュ。よし、いくぞ」
「「よっこらしょっ」」
「ふー、取れた。サンキューって、お! 500円玉が出てきたラッキー」
「儲けましたね、ホイミンさん」
「おう。棚からぼた餅ってヤツだな」
そんなやりとりを眺めていたニャオキバヤシ。
「机……どかす……思いがけぬ……発見……」
「ん? どうしたんだ? ニャオキバヤシ」
「そうか、そうだったのか!」
「どうしたんだ?」
「みんな、これから会議室に集まってくれ。『デスノート』事件についての真相を話そう」
「そ、それじゃあ……」
「ああ、謎はすべて解けた!」
第4章 真実はいつも一つ
セピアメモリー編集部・会議室。
「謎が解けたって……どういうことだよ、ニャオキバヤシ」
額に汗を掻きながらニャオキバヤシに言うホイミン。
「俺達は巨大な問題を前に、真実を見逃すところだったんだ」
「どういうことです?」
「まずは結論から話そう」
「……」
沈黙する一同。そして、ゴクリと息を呑み次の言葉を待った。
「『デスノート』は集団殺人扇動漫画だったんだよ!」


「~~~~~~~~っ!?」
「どういうことなんだ?
まさか、殺人ばかり描かれているから、読者までそういう思考に陥る……などと言うわけではあるまい?」
「勿論、そんなことは言わないさ。まずは大場つぐみの正体から話そう」
「正体って、結局何もわからなかったじゃないか」
「いや……意外なところに真実は隠されていたんだ。これを見てくれ」
そう言って、『デスノート』コミックス1巻を取り出すニャオキバヤシ。
「それがどうしたっていうんだ?」
「このカバー折りに描かれている自画像。これに重大な秘密があったんだ」
「秘密って……単なる自画像のシルエットだろ? まあ、自画像とはいってもあくまでイラストだけど」
「いや、違うんだ。そうじゃなかったんだ?」
「?」
何がなんやらわからないといった様子のホイミンとチヨ。
「とにかく、見てくれ」
そういって、『デスノート』コミックスの第1巻カバー帯を見せる。

「だから何だっていうんだ?」
「これが……」

「こうなる」

「~~~~~~~~~~~っ!?」
「こ、これは!」
「死神!?」
「女性のシルエットで巧みにカモフラージュしているが、実はこれは大場が死神に憑かれたガモウひろしであるということを現していたんだよ!」
「そ、それじゃあ、やたら滅多に人が死にまくるのも……」
「ああ、死神が原作だからな。当然のことと言えよう。
無論、多少人気が落ちたとしても終わらないのは、死神大場が編集サイドを洗脳しているからと考えれば筋が通る」
「そんな馬鹿な……」
「大場つぐみのアナグラム『ガモウ死没(gamou sibotu)』とは、死神に憑かれたガモウひろしということを現していたのさ!
勿論、最初はガモウに対する死神の支配力は小さかったのだろう。これは読み切り版『デスノート』に登場するデスイレイザーというアイテムを見てもわかる」
「デスイレイザーというと、読み切り版のみに登場した生き返りのアイテムか!」
説明口調で補足するホイミン。
「ああ。しかし、死神の支配力が強くなるに従い、そんなアイテムは抹消されてしまった。さらに連載が続くに従って、特に第2部に入ってから益々人が死ぬようになったのも、死神の支配力が強くなったからなのさ!」
「何てこった……!」
「ここまで来たら、あとは簡単さ。殺人漫画を日本一の雑誌に連載し続けることで、読者に殺人衝動を植え付けるようにアジテートする。何せ死神が描いている漫画だ。次第に現実でも集団連続殺人が起きるだろう。
コラージュが流行っているのはその前段階。既に人類は『デスノート』支配に染まりあるんだよ!!」
「ニャ、ニャオキバヤシよ! 人類はどうなってしまうんだ?」
「このままでは『デスノート』に支配されて滅亡してしまうだろうな」
「何か、何か手だてはないのですか?」
狼狽し、憔悴しきった表情で言うチヨ。
「手だてはある」
「なんだって?」
「ガモウひろしが死神に憑かれているのだとすれば、それから解放してやればいい」
「解放?」
「どうやってそんなことを?」
「ある人物がその鍵を握っている。その人にガモウを鑑定してもらえばいい!」
「ある人物?」
「そして、我々はその人物を知っている!」
「ま、まさか……。その人物というのは……」
「ああ。今、お茶の間で大人気、世間を賑わしている……」
ゴクリ、と一同が息を呑む。
「六星占術の細木数子氏! その人だッ!!」
我々、SMRのメンバーは現在、細木数子氏にコンタクトを取るよう全力で活動中である。
2005年 8月
※ この話は事実を元にしたフィクションです。実際の人物、団体、地域とは何の関係もありません。
………………。
…………。
……。
第5章 受難
後日。セピアメモリー編集部。編集長室。
そこには『デスノート』考察のレポートを持ったSMRのメンバーが揃っていた。今回の『デスノート』考察を発表する為の最終的なゴーサインを編集長から貰う為である。無論、ゴーサインとは言ってもそれは形式的なことで、大抵の場合は公表が許される。ニャオキバヤシ達も、単に判子を押してもらう程度の安易な気持ちしか無かった。それよりも、これから大場つぐみという死神にどう立ち向かっていくかという正義感に燃えていた。 神妙な面もちで編集長からの返事を待つ三人。既に思考は死神大場とどう戦っていくのかということに向かっていた。公表に関してゴーサインが出ることなど、当然だと思っていた。
しかし、編集長の答えはそんなニャオキバヤシ達の義憤をうち崩すものであった。
「こ、公表不可ッ!?」
ニャオキバヤシの顔が陰る。
『デスノート』考察について、セピアメモリー編集部編集長が下した結論は『否』であった。

「~~~~~ッ!?」
騒然とする一同。
「ど、どうしてですか、編集長! じきに集団殺人が起きるかもしれないってのに!」 当然、それは納得できるものではなく、ホイミンが机をバンと叩いて食い下がる。レポートが公表できないということは死刑判決を受けたも同じ。これまでの時間が全て水泡。
「そうですよ! そのレポートに全ての証拠が添付されているじゃないですか!!」
同じく食い下がるチヨ。
「……我々のレポートに何か問題でもあったのでしょうか」
冷静を装い質問するニャオキバヤシ。だが、その表情は重く動揺を隠し切れていない。
沈黙する編集長室。机の上で手を組み顔を伏せる編集長。その編集長から納得のいく返答を求める一同。
やがて、編集長の口が開く。
「全てはこじつけにすぎんよ」
レポートをパサリと投げる。
「~~~~~~~~~ッ!!!???」
「具体的な証拠がない。全ては状況証拠に過ぎぬ。こんなものを公表することは許さん」
「だって、そんなッ!」
異議を求める一同。
「冷静に考えても見ろ! ガモウひろしが死神に憑かれているとは言え、あんなストーリーを考えられると思うか? 集団殺人を扇動するメディアに漫画を選ぶか? 選ぶとするなら、ネットかテレビだろ? 漫画を使って殺人を促すなんて馬鹿馬鹿しい! 馬鹿も休み休み言え!!」
「馬鹿」
「――あ?」
「……馬鹿」
「なんだと?」
「……いえ、馬鹿も休み休み言えと言われたので」
茶目っ気を出すホイミン。彼の悪い癖であった。
「ばっかもーん! そんな冗談を言う暇でもあったら、漢字の一つでも覚えろ! いいか! こんなレポートを公表することは絶対に許さんからな! 考察するなら、もっとマシなレポートを書け! 俺を唸らせるようなスゴイ奴を書け!」
「細木氏へのコンタクトは……?」
「出来るわけないだろう! こんなことでコンタクトをとろうとしたら、呪殺される……じゃなかった! 追い返されるに決まっているだろう! それにこんな曖昧なものを発表したりしたら政府や、各種公共団体、宗教法人、法人が黙っておらんよ。おまえらはセピアメモリー編集部を潰すつもりか? デタラメなことを言って叩かれたら、こんな部はすぐに潰れてしまうんだぞ? お前達もジャーナリストの端くれだったら、己の発言には責任を持て! それが出来ないのなら、こんな仕事は辞めてしまえ!」
怒鳴る編集長。それに圧倒されるホイミンとチヨ。辞めてしまえ、という編集長の一言。
辞める=無職=資産0=飲み食いできない=死
昔のエロ漫画のような式が脳裏に浮かぶ。お金がないということは贅沢ができないということ。CD、ゲーム、DVD、洋服、車、外食、ギャンブル、エロゲー、ネット、エトセトラエトセトラ。辞めるということは、そんなささやかなささやかな贅沢が奪われるということ。それは正に身が引き裂かれるのと同意。
それに実を言えば、ホイミンとチヨは編集長の言うことに半分は同意をしかけていた。あの時はニャオキバヤシの悪魔じみた語り口、センス、圧倒感で納得させられていたが、今考えればおかしいと。編集長の言っていることが正論なのではないか? 自分達はニャオキバヤシに踊らせていたのではないか。
思えばタロウ氏が事故にあったのも偶然だったのではないか。「死神が来る」なんて言葉も今時のメディアに使っている若者であったなら、発しても不思議なことではない。何せ、リアルで「ワロスワロス」言っているような世の中だ。そう考えれば辻褄が合う。
自分達はニャオキバヤシのテンプテーションに冒されていただけではないのか――! お互いに目を合わせるホイミンとチヨ。
「……」
その時、ニャオキバヤシは何かを考えていた。遠くを見るような目をしていた。思い詰めていた。何かを言おうか、言うまいか、そんな表情。
それを察知したチヨが訊ねる。
「ニャオキバヤシさん。どうしたんですか? 思い詰めたような表情をして……」
「ああ、そうだな」
「……これは言うまいと思っていたことなんだが」
「どうした、ニャオキバヤシ? まだ何か他のトンデモ理論が残っているのか? 折角だから訊いてやるぞ? まさか、大場つぐみが細菌ウイルスを使ってテロを企んでいるとか、ナチス復活を企んでいるとか言うわけでもあるまい? 天変地異を引き起こそうとしているとでも言うのか?」
まくし立てるように編集長は言った。その剣幕に圧倒されるホイミンとチヨ。しかし、ニャオキバヤシは引かない。諦めない。歯を食いしばり、編集長に目線を合わせると力強い声で反論した。
「違います!」

“ドーン”という背景書き文字と共に叫んだニャオキバヤシ。編集長室が揺れた。まるで地震でもあったかのように錯覚する面々。それくらい、今の彼には迫力があった。
「何だ、ニャオキバヤシよ。まだ俺達にも言っていない『デスノート』考察があったというのか?」
「ああ……。だが、これは言うまいと思っていた」
「それは何故です?」
とチヨ。
「大場つぐみ=死神説だけで充分なインパクトを与えると思っていてな。それにこれは……誰も信じてはくれまい」
再び口を噤むニャオキバヤシ。当然、皆は発言を待っている。だが、ニャオキバヤシはなかなか口を開かない。
それは普段、割と饒舌であるニャオキバヤシにしては珍しいことであった。普段の彼は逆で、むしろ何でもかんでも物事を大きく語りたがるタイプ。それだけにホイミンとチヨは興味を引かれた。一体、何を語ろうとしているのか? それは他のSMRメンバーに限らず、編集長も同様であるようだった。
「お前がそれだけ口を噤むとはな……。一体何なんだ? お前だけが知る『デスノート』考察があるというのか? 言ってみろ!」
目を閉じるニャオキバヤシ。再びシーンとする編集長室。
「……」
それからどれくらいの時間が過ぎただろう。それは30秒だったのかもしれないし、1分だったのかもしれないし、5分だったのかもしれない。周りの空気は重かった。ゴクリとノドを鳴らし、ニャオキバヤシの言葉を待った。
そしてニャオキバヤシは目を見開く。天を仰ぐ。
「大場つぐみが死神であることは疑いようもない事実。だが、事態はそんな単純な問題ではなかったんだ!」
「……ゴクリ」
息を呑む一同。
「大場つぐみは……大場つぐみは……、地球侵略を目論んだ宇宙人だったんだよ!」


「なんだって~~~~~~~~ッ!!??」
「死神と表現したのは、まだその方が皆の理解を得られようと思ったからだ。要するに、大場つぐみというのは死神という名の宇宙人。UFOに乗り地球へと襲来した侵略者だったのさ。誰もその存在を知らないというのがその証拠。地球に存在しない人物。そんなものは地球上には存在しない。地球上に存在しないということは……」
「宇宙か!」
「そう。宇宙からやってきたとしか考えられないんだ。広い宇宙から何の為に地球へ? そんなのは考えるまでもない。侵略だよな? おそらくは自分の星が天変地異か何かで消滅してしまったのだろう。そんな異星人大場つぐみは地球を母星にする為に飛来した。そして、地球人の殲滅を計画する。同胞が地球で生活できるように。やがては宇宙でちりぢりになった仲間達を地球に呼び寄せる為に。この地球で新しい生活を始める為に!」
「……」
「だが、大場には地球人を相手にするほどの力が残っていなかった。殆どの力は地球に到着した時点で失われてしまったんだ。それほどまでに、大場は弱っていた。本来は念じただけで、人を殺せるくらいの力は持っていた筈だ。もしかしたら、天候を操作することだってできたかもしれない。キャトルミューティレーションをするくらいの力だってあった筈だ。だが、それらの能力を使うだけの力は残っていなかった。残っていたのは唯一、思考をコントロールする力のみ。だから、時間をかけて地球人達を同士討ちさせ滅亡させる方法をとるしかなかった」
皆、唖然とした表情で聞いていた。宇宙人大場つぐみ説を語るニャオキバヤシの目は真剣そのものだった。それはまるで何かに憑かれているような迫力があり。反論を許さない絶対さをもっていた。
誰もがその場から動かない。いや、動けなかった。圧倒的なニャオキバヤシの迫力に硬直していたのだ。一体、彼は何を言っているのだろう。
硬直した空気。時が停まったように動かない。
やがてホイミンが絞り出すように言う。
「……言ってること、無茶苦茶だぞ」
それは別離の言葉だった。脳天直撃でニャオキバヤシに突き刺さる。
「ホイミン!?」
「何がどうしたら、そうなるんだよ、ニャオキバヤシ! 宇宙人だなんて、トンデモもいいところだぞ? そりゃ、お前は大胆な仮説を立てるのが十八番なのかもしれないけどさ。それにしても無茶苦茶だ、ああ無茶苦茶だ。地球上に存在しないから、宇宙人だって? 最初はミステリー路線だったんだから、作者だってミステリアスな方が面白いっていう編集部判断だろ? あて推量で無茶苦茶言いやがって! 当人の気持ちになって考えたことがあるのかよ!?」
「う……、ううっ……!!」
絶句するニャオキバヤシ。それに編集長が追い打ちをかける。
「ホイミンの言う通りだな、ニャオキバヤシ。おまえの言っていることは無茶苦茶だ。まぁ、そのトンデモが面白いところではあるのだが。度が過ぎると面白くない。失笑する」
「そんな……馬鹿な……。チヨ、まさかお前まで編集長やホイミンと同じことを言うのか?」
何も言わずに目を閉じて首を横に振るチヨ。それはチヨ自身も編集長やホイミンと同意見であるということだった。全ての味方を失いどん底へと落ちたニャオキバヤシ。両手足が床に落ち項垂れる。
「お前達……もしかすると、最初から信じていなかったんだろ?」
「!?」
ギクリ、と図星を憑かれたような表情をするホイミンとチヨ。
「そうか、そうかよ。最初から誰も信じてなかったのかよ。仲間だと思ってたのに。だったら、最初から編集部なんて当てにせずにフリーで動けば良かった。くそっ。信じてたのに。俺を騙しやがって! 畜生! 畜生!」
「いや、信じていなかったわけじゃないぞ」
「嘘だっ!!」

鷹のような目で、鬼のような表情に豹変したニャオキバヤシ。
「証拠がいるんだよ、ニャオキバヤシ」
編集長。
「証拠なんて待っていたら遅いッ! 殺人扇動ですよッ!? 地球の危機が迫ってるんだ! こうしている間にもエックスデーは近づいてるんだ。今すぐ何とかしないと駄目なんだッ。それに相手は宇宙人なんだ。地球人的発想な証拠なんてのは意味を成さない。それよりも今は目の前の危機を回避することが肝要。どうしてその危機感がないんだッ!」 相手が宇宙人だから、通常の証拠では意味がないというニャオキバヤシ。その理屈は理論が正しければ正論かもしれないだけに質が悪かった。
チヨは重くなった場の空気に耐えられず、狼狽していた。どうしてこんなことになってしまったのか。いつから間違った方向に向かっていたのか。やはり、真相なんてものは存在しなかったのか。
ホイミンは何かを考えていた。目を瞑り冷静になるように努めていた。そして、目を開きニャオキバヤシに向かって言う。
「とりあえず、出直してこようぜ」
「何言ってるんだ、ホイミン! もう時間はないんだよ! こうしている間にも宇宙人の侵略は進んでいるんだ! もしかしたら、我々の存在に気付いている可能性だってある。タロウ氏のように我々だって消される恐れがあるんだ! 消されてからじゃ遅いんだよ!」
「落ち着け、ニャオキバヤシ! タロウ氏のようにって、別に殺されたわけじゃねーだろ? 犯人不明の交通事故にあっただけだろ?」
「タロウ氏は運良く生き残れたがな。我々だってそうとは限らない。それにタロウ氏の事故は我々への警告という可能性だって充分にある。だから、一刻も早い調査が求められるんだよ! 危機迫ってるんだよ!」
何を言っても無駄か、とホイミンは思った。相手は宇宙人だから我々の常識では通用しない、というトンデモ理論武装をしているニャオキバヤシは最強の状態になっていた。既に編集長とチヨは諦めているようで、自然に熱が鎮火するのを待っていた。
だが、このままでは何をしたもんだかわからないとホイミンは思った。武装して編集部を占拠して、宇宙人対策を求められる可能性だってある。付き合いの長いホイミンにはわかっていた。ニャオキバヤシはやるときにはやる男だと。
そんなことになってしまったら、彼の人生は終わってしまう。ここは何とかしよう。
間髪入れず、相手の行動も許さず、ホイミンのグーパンチがニャオキバヤシの顔面に炸裂した。
「げふっ」
不意打ちの一発を食らい仰け反るニャオキバヤシ。
「何を、する」
「口で言ってもわからないようだからな」
ファイティングポーズを取り、クイクイと「かかってこい」のジェスチャーをとるホイミン。
「ふん、やるならお前を倒してからということか?」
負傷した顔を拭いながら、ホイミンを睨み付けるニャオキバヤシ。
「ああ、お前は宇宙人対策を求めてるんだろ? 宇宙人を相手にするくらいだからなあ。俺くらいなら簡単に倒せるだろ?」
「面白い」
そういってニャオキバヤシもファイティングポーズを取る。
編集長とチヨは呆然とした表情でそのやりとりを見ていた。
「「でやあああああああ」」
そうして決着がついたとき、二人はボロボロになっていた。お互いに何十発の殴り合いをしたのか覚えていない。ただ、それが終わった今、とても爽やかな気持ちになっていることをニャオキバヤシは感じていた。
宇宙人、宇宙人、って仲間のことを全然考えていなかったな、とニャオキバヤシは気付かされた。ちっとも相談せずに、暴走する。悪い癖だった。
それをホイミンが身体を張って教えてくれたのだった。
「俺が……間違っていた……というのか? 間違っていたのかなぁ、かなぁ?」
バタンと倒れるニャオキバヤシ。
右手を挙げて勝利をアピールするホイミン。なぜかレフェリーの位置に編集長がいた。チヨはずっと狼狽えたままだった。
終章 完の完
2006年 5月 セピアメモリー編集部。会議室。
そして、月日は流れ『デスノート』は連載終了した。
今日は週に1回の定例会議。通称“月曜会議”が行われる日であり、既にチヨとホイミンが着席をしていた。しかし、ニャオキバヤシがまだ場に訪れる二人は暇を持て余している。例によって今日も遅刻だ。
弛緩した空気が流れ、取り留めのない会話を続ける二人。
「結局、デスノートって何だったのか。疾風怒濤の如く駆け抜けて終わっちゃった感じだよな」
「さあどうなんでしょう。結局はPTAの圧力に屈したんじゃないかというのが大方の見方ですよ」
「PTAの圧力に加えて、『デスノート』そのものの人気も落ちちゃったからな。ジャンプ編集部が『デスノート』を続ける理由がなくなっちまったわけだ」
「そうですね。それだったら、終了させるというのがベターな選択だとは思います。小畑氏には新しい原作者を付ければ良いだけの話ですし」
「しかし、終了させたにしてはアニメ化だの映画化だのメディアミックスに盛んなのはどうしてだ?」
「んー、アニメだの映画だのといったのは企画から発表までで随分な時間がかかりますからね。企画されたのがもっと前だったのではないでしょうか?」
「成る程な。メディアミックスの路線で話は進んでいたが、PTAの圧力と人気の低下で終了させることを選択したというわけか」
「持ち駒の多いジャンプならではの戦略かもしれませんね。一応、『デスノート』関連の話は今後のジャンプでも特集していくみたいですし、これでこの騒動については一段落ということでよさげな感じです」
「結局、俺達の調べたことも全て無意味に終わったわけだ」
ふてくされるホイミン。
「はは。そんな切ないことを言わないでくださいよ。今回の調査で得た経験を次の調査で生かせば良いんですよ」
「実にポジティブシンキングなことで、よろしいですわなあ」
「どういう言葉使いですか」
取り留めのない会話が続く。
そこに――。
「お前達、今日もやっているようだな」

「ニャオキバヤシ」
「ニャオキバヤシさん」
「みんな揃っているようだな」
「で、今日は何の話なんだ? 新しい調査物件でも見つけたのか? そろそろ新ネタに取り組まないとまた編集長にどやされるぜい」
「いや……」
「では今日の会議では何を話し合うというのです?」
質問するチヨ。
「わかったんだ」
「何がです?」
「……まさか」
「そのまさかだよ、ホイミン。『デスノート』事件の真相さ」
「またかよ。今度は未来人が正体だったとか言うんじゃないだろうな? はたまた異次元人か? 地底人か?」
「いや……、俺がわかったのは『デスノート』の最終回についてさ。そこから、すべての真相を暴くことができた」
「最終回というと、あの謎の少女が天に祈りを捧げて終わるというアレですか?」
「ああ」
「一体何がわかったというんだ? ニャオキバヤシよ」
「その前に、あの最終回について、お前達の見解を教えて欲しいんだ」
「え? まあ、それはいいけどよ」
「それだったら、私から話しましょう」
そう言って、席から立ち上がるチヨ。
「言ってみてくれ」
「あの最終回の前、その背景から話をしても良いですか?」
「構わん、続けてくれ」
「はい。まず、あの最終回の前には主人公・夜神月の弱体化という仕掛けがありました」
「弱体化?」
顔を曇らせるホイミン。
「ええ、そうです。これは第2部の開始当初から言われていることでしたが、夜神月の頭脳というか思考回路ですか? これが低下しまくっていたんです。しかも、最終回直前では見るも無惨に劣化していた」
「どういうことだ?」
「例えばニアに照が偽のノートを掴まれた時だって、第1部の月なら予測できていた筈なんです。それに当時は顔を知られていなかった照に“夜神月”の名前も予めノートに書かせておくことだってできた。そうすれば、ニアの証拠にはならなかった」
「まあ、それはそうだよな。しかし、それだと話が終わらなかったぞ?」
「そうなんです。つまりは終わらせる為に展開していたという可能性があるんです」
「まあ、それがPTA圧力による打ち切り説の可能性を高めているな。単に終わらせるだけではなく、悪の象徴である夜神月が格好悪くならないといけない。格好良いままで終わると教育上によろしくない。悪人格好良いという思想を読者に植え付けかねないからな」
ニャオキバヤシ。
「そんなこんなで、夜神月は弱体化していました。そして、格好悪く死んでしまいました」
「で、最終回はどう説くんだ?」
ホイミン。
「そこなんです。最後はキラ信者達が蝋燭(Light)を持ちながら空の月(Light)に向かって祈りを捧げるという終わり方でした。これは結局は夜神月は神になった、ということを現しているんだと思います」
「うむ。確かにそうだ。しかし、そうなってくるとおかしな点があることに気付かないか?」
「おかしな点?」
首を捻って考えるホイミン。しかし、わからない。
一方のチヨも考える。そして閃く。
「あっ」
「何かわかったか?」
「月のイメージを最低限まで落下させたのにも関わらず、最後の最後では神格化されています。これは凄い矛盾と言えるのではないでしょうか?」
「確かにそう考えてみると変だよな。PTAの圧力の為に月を劣化させたと考えると、最後の最後で神にさせたのはおかしい。キラ信者なんていなくなった、という感じで終わらないと一貫性を保てない」
「そうなんだよ!」

そう言って凄むニャオキバヤシ。その迫力に圧倒される二人。
「確かにあの終わり方はおかしいな。それに、最後の最後で謎の少女が祈っているという終わり方もわからない。
あの少女はミサ説とか妹の粧裕説とか流れているけど、キラ信者という名詞に過ぎないわけだろ? 既存キャラとは無関係なんだろ? 名詞と代名詞の中間みたいな存在で描かれているって? 何のこっちゃ?」
頭を掻きむしるホイミン。わけがわからなく、頭がこんがらがっていた。
「その謎の少女こそが『デスノート』事件の真相を解き明かしてくれたのさ」
「えっ……」
驚愕の表情でニャオキバヤシを見つめるホイミンとチヨ。あの少女はキラ信者の象徴みたいな感じでそれっぽく描かれているだけではないのだろうか。意味深っぽく装っておいて、実は何でもないというパターンではなかったのか。
「あの少女には大きな秘密が隠されているんだ」
「それは何なんだよ、ニャオキバヤシ! もったい付けてないで教えてくれよ!」
ホイミンが先を促す。
「というよりも、我々は既にあの少女の正体を知っている」
「知っているというと、ミサか粧裕のどちらかっていうことですか?」
「そうじゃない」
といってかぶりを振るニャオキバヤシ。
「それじゃあ……。まさか!」
「そう、気付いたようだな。
あの少女こそが、我々の追い求めていた“大場つぐみ”本人だったんだ!!!!」

「なんだって~~~~~~~~~~~~!!??」

信じられない、といった表情でニャオキバヤシを見つめるホイミンとチヨ。
「俺だって、最初は信じられなかったさ。けど、そう考えると全てのピースは嵌るんだ。
つまり、『デスノート』最終回の最後の7頁は『デスノート』世界ではなく、我々の住んでいる世界を描いているんだ」
「一体どういうことなんだよ、ニャオキバヤシ。馬鹿な俺でもわかるように説明してくれ!」
「こういうことさ……」
そして、ニャオキバヤシの話が始まった。時の理を説く高層のように、彼は語り出した。
――そこに大場つぐみという一人の少女がいました。
――彼女はとても正義感の強い少女でした。
――学校では進んで学級委員に立候補しましたし、困っている人がいたら、進んで助けてあげていました。
――だから、彼女は学校でも人気者。
――困っている人が助けられたら、その人は自分も良いことをしようと思う。
――みんなみんな良い人になっていきました。
――それは好循環でした。
――良いことが、良いことを生み、良いことを育む。
――素晴らしいことでした。
――そういうわけで、それが彼女のアイデンティティになったのでした。
――しかし、世の中はそんなにうまくはできていません。
――成長するにしたがって、彼女の正義が通用しなくなる場面も増えてきます。
――正義とは一体何なのかわからなくなります。
――たとえば世界中で起こっている戦争。
――どちらの国が悪でどちらの国が正義なんてことは、誰にも定義できません。
――視点が変われば正義であるし、視点が変われば悪である。
――これは要するにそういうことだったのです。
――彼女のアイデンティティは崩壊寸前にまで追いつめられました。
――悪と正義がいて、自分は正義の側にいる。
――そう信じてきたのに、それが揺らごうとしている。
――結局は正義なんてものは、力を行使するものの方便にすぎないのだなと思うようになりました。
――自分が正しいことをしているかわからなくなりました。
――自分が正しいと信じても、他の人からみたらそうではないのかもしれない。
――勿論、それは仕方のないことなのだけども、彼女にはそれが許せませんでした。
――そうこうしているうちに、彼女は段々と無気力になっていきました。
――そうだ。善悪を判断してくれる神様「キラ」様がいればいいんだ。
――そう思ったのです。
――だから、彼女は祈りました。そして、彼女の物語『デスノート』を上梓しました。
――連載は好調でした。見る見る内に人気はあがり、やがてはジャンプのトップクラスにまで登りつめました。彼女は元気を回復していきました。
――今の土壌は『デスノート』。私は『デスノート』で頑張ろうと。キラ様に認めてもらおうと。
――けど、登りつめたらあとは下り坂とは誰の言葉だったでしょうか。
――世間一般からクレームを貰うようになります。
――健全な少年少女が読んでいる雑誌に何て内容のストーリーを提供するんだと叩かれるようになります。
――彼女にとってみれば、読者数が日本一であるからジャンプを選択しただけなのに、それが少年誌であることから好ましくないとされてしまったのです。
――人気のある影でそういったことを言われる。自分が正義なのか、悪なのか。またわからなくなってしまいました。
――そんなことを考えている内に、彼女は再び弱ってしまいました。
――そして、連載の終了が決まってしまったのです。
――しかも、編集部からは主人公・夜神月の弱体化を命じられました。こんな悪の主人公が格好良いままでは駄目。格好悪くしてから終わらせなさいと。
――彼女は悪って何だろうと思いました。そんなことは誰にもわからないというのに。けど、上の者が終わりというのなら仕方がありません。
――彼女は主人公を弱体化させ、無惨に負けさせて『デスノート』を終了させました。 ――だけども、彼女は最後に精一杯のメッセージを込めました。
――お空の神様に届きますように。
――キラ様、と。
ニャオキバヤシの話が終わる。
ホイミンとチヨは号泣していた。ニャオキバヤシもその表情は暗い。
「なんて、なんて悲しい物語なんだよ」
「やりきれませんよね……」
項垂れる二人。
「ニャオキバヤシよ! 何か、救う手だてはないのか? 彼女、大場つぐみを!」
「残念ながら、連載は終わってしまった。彼女のダメージは計り知れない。俺達ができることは……ないだろうな」
俯くニャオキバヤシ。
「あの最終回にそんなメッセージが込められていたなんて」
「そうだな。終了を迫るジャンプ編集部の魔手から逃れる為には、あのカモフラージュしかなかった。だが、そのメッセージを受け取ったとしても……我々にできることはない」「くそっ!」
毒づくホイミン。
「だが……」
「えっ?」
「我々ジャーナリストには言うことができる。発言する権利がある。だから」
「だから?」
チヨがニャオキバヤシに問う。
「大場つぐみ先生の新作に期待しようじゃないか。大場つぐみを応援しようじゃないか!」
「ああ、そうだな! それが一番だ! 彼女が創作家として活動しているのなら、俺達には応援する権利がある!」
「よし、そうなれば早速いくぞ!」
「どこへだ? ニャオキバヤシ?」
「勿論、映画版『デスノート』の予約券を買いにさ!」
「おう!」
END
このお話は事実を元に構成されたフィクションです。実在の団体、法人、個人とは何の関係もありません。
第1話 終わり
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